石井達朗|手紙

手紙 石井達朗

第4回 恋愛舞踏派上棟 田中 泯独舞「脱臼童體」
2002年5月東京・世田谷パブリックシアター公演より

この間の「脱臼童體」は、近年、もっとも印象に残る作品でした。

とりわけ70年代から泯さんの公演を見ているわたしにとっては、泯さんがこれからの舞踊活動を新たな局面において展開してゆくうえでのひとつのエポックであるような印象をもち、感慨深かったです。「体操少年」としての泯さんの身体記憶が土方巽との邂逅をとおして蘇り変容し、抑えられた表現として舞台に立ち現われました。その泯さんの表現をささえる音の使い方も秀逸でした。還暦以降の舞踏活動に踏みこむための滋養を土方から吸収し、今までの泯さんになかった地点に立つ覚悟のようなものが感じられました。

これからは、十数年ぶりではなく、2、3年に一回はこういう大きなソロ公演の機会をもち、その土地の土を踏み、畑を耕し、その土地を酒や水を飲んでいる体がそのまま半歩でも一歩でも新たな地平に踏み込む予感を感じさせてくれる身体として、舞台に再登場することを願っています。

石井達朗(慶応大学教授)