映画「無音の叫び声」(2015年/日本/日本語/122分)
2016年4月9日(土)〜4月29日(金)
連日午前10時30分と午後3時10分の2回上映
映画館:ポレポレ坐(ポレポレ東中野) http://www.mmjp.or.jp/pole2/
<スタッフ>
語り:室井 滋
朗読:田中 泯
監督・構成・編集:原村政樹
撮影:佐藤広一、渡辺智史、原村政樹
音楽:佐々木良純
題字・絵画:草苅一夫
企画・製作・配給:映画「無音の叫び声」製作委員会
<コメント>
本当の言葉を僕は大地の生き物から教わった。
無音を解し許しあう世界こそ、人間の言葉だ
― 田中泯(ダンサー)
闘うことで、混乱と苦難をサバイバルしてきた
農民詩人・木村迪夫の言葉は、針路を照らす灯り
として、現在、さらに輝きを増している
― 村上龍(作家)
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農民詩人の波乱の半生 映画「無音の叫び声」上映
ひばりタイムス:北嶋孝
山形国際ドキュメンタリー映画祭2015で公式上映された映画「無音の叫び声」が4月9日から東京・東中野の映画館を皮切りに全国各地で上映される。登場するのは木村迪夫さん、79歳。山形県の農家に生まれ、農村の生活革新を進めるかたわら、南方の遺骨収集に参加したり三里塚闘争を記録した小川プロダクションを自宅隣に招いたりした。土と生きた体験を16冊の詩集に表現した農民詩人。その波乱の半生を、映像と語りで記録する2時間余りのドキュメンタリーだ。
木村さんの生き方には、3度目の召集で戦死した父の不在が大きな影を落としている。小作人の父は農家の跡継ぎ。次男の叔父が戦死したときは、涙をこぼさない「皇国の母」だった祖母が、長男の父が戦死してから「怨念の塊」になって戦を呪った。10年以上、ご詠歌のように嘆きを口にしたという。その祖母の言葉を、木村さんはこう書き留めた。
にほんのひのまる
なだてあかい
かえらぬ
おらがむすこの ちであかい
(「祖母のうた」)
木村さんは農家の長男。中学卒業後、男手のない家族を支えて働いた。そのかたわら県立上山農業高校定時制に通った。仲間と詩誌「雑木林」を創刊。「虫けらのように、言葉も持たず、表現活動をしないで一生を終えるような生活はしたくない。ものを見、発言できる百姓にならなければならないと思った」。この決意が、木村さんを支えた。
青年団に入って、封建的な農村の生活改革を続け、結婚してからも平和運動や映画、演劇活動にも打ち込んだ。
やがて高度成長の波が木村さんの住む山形にも及ぶ。プロパンガスが入って炭焼きが廃れ、小型耕耘機の導入で田植えや刈り取りの重労働が軽減され、代わりに牛馬の姿が消える。近隣の次三男は集団就職で郷里を後にする。働き手の父親世代は農閑期、都会へ出稼ぎに出るようになった。
およそ10年経って転機がやって来た。建設工事現場に小学6年の娘から手紙が届いた。なかに、こう書かれていた。「早く帰ってきてください。お父さんと一緒に勉強がしたいのです」。
減反も始まっていた。出稼ぎを止めても、農業だけでは食べていけない。始めたのは廃品回収業だった。土地の言葉でいう「ゴミ屋」。家族に相談した。二人の娘は「お父さんは職業に貴賎はないと言ってきたではないか」と言う。ゴーサインだった。買ってほとんど着ることもなく捨てられる衣服。無造作に捨てられる残飯の山…。「このまま行くと、日本は滅びると思ったね」。
このころ村に波紋が広がった。木村さんが千葉県・三里塚でドキュメンタリー映画を作り続けていた小川プロダクションを自宅の隣に招いたのだ。「村の閉塞的な状況を変えたい」という決断だった。家族は大反対だった。しかし間もなく、祖母が大の小川伸介監督のファンになり、妻のシゲ子さんも頻繁に行き来するようになった。小川プロはここに腰を据えて約20年。「ニッポン国古屋敷村」「1000年刻みの日時計」など海外の映画祭でも高い評価を得る作品が生まれた。
小川伸介さん(左)、真壁仁さん(右)とともに ©『無音の叫び声』製作委員会
定時制高校時代に創刊した詩誌「雑木林」の仲間、青年団活動から付き合いのある友人たち、山形の農民詩人としていち早く活動していた真壁仁さんらとの交友関係など、幾重ものネットワークが木村さんの活動を後押しした。
叔父が亡くなった南太平洋のウェーキ島を訪れて、多くの遺骨を収集。父が戦死した中国にも渡った。それらの思いが言葉になり、多くの著作に記録された。現代詩人賞、日本農民文学賞、斎藤茂吉文化賞などを受賞。農村に暮らし、土に根ざした言葉と表現が実った証でもある。
監督は原村政樹さん。環境や農業をテーマにした作品を撮り続け、「海女のリャンさん」(2004年)「里山っ子たち」(2008年)「天に栄える村」(2012年)などを発表。東京で3月14日に開かれた最後の試写会で挨拶し、「この映画は昨年10月、山形国際ドキュメンタリー映画祭公式上映作品として世界初上映されました。メーン会場の山形市民会館大ホールが満席となり、1000人を超える観客の拍手で迎えられました。映画の思い、木村さんの思いが伝わったのではないかと思います」と語っていた。
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<イベント>
4月10日午前と29日午前にトークイベント開催
原村政樹(本作監督)、佐高信(評論家)をはじめ
中村敦夫(俳優)、松元ヒロ(コメディアン)、高橋悠治(ピアニスト・作曲家)
渡辺えり(女優・劇作家)、などなど数多くの方々がご登壇くださいます。
★いずれも上映後に予定。
オフィシャルサイト「pole pole news」で詳細をご確認ください。
http://www.mmjp.or.jp/pole2/
当日料金
大人 1700円
シニア・学生 1300円
中高生 1000円
<お問い合わせ>
ポレポレ東中野(電話03-3371-0088)